« 中国のこと | トップページ | PC-8001 »

2005/04/30

生きる意味 上田紀行著 岩波新書

400430931X 生きるということはどういうことなのか、自分はどう生きたいのか、そして子どもたちにはどう生きてほしいのか。新書ながら難しいテーマを掘り下げたなかなかの本である。

現在は「生きる意味の不況」だと著者はいう。経済的な豊かさだけを追求して、他人のほしがるものを自分も求めることで物質的な幸せを追い求めていたが、1990年代初めのバブル崩壊によって奈落の底に突き落とされた。自分を他人と比較することでしか幸せを感じることができない人が多くなった。景気が回復すればこの問題は解決するのか。もっと深いところに問題の核心があると著者は指摘する。

自分が何をやりたいのか、という自分にとって重大なことをこれまで問うことなしに生きてきた子、自分が何をやりたいのかよりも、いかにしたら周囲に受け入れられるかを優先してきたので、自分が何をやりたいのかも分からなくなってしまっている子。「透明な存在」は自分の存在感の危機に瀕することになってしまうのである。

著者は現代日本人の空しさは自分がどこまでも交換可能であるという意識からくる「かけがえのなさの喪失」だという。

は本当は世界に一人しかいないかけがえのない存在だ。の誕生は神秘に満ちている。4〜5億個を超える精子がたった一個の卵子を目指して、そして私自身の新しい人生を目指して殺到する。実際に合体できるのはたった一個の精子だけだ。精子と卵子の組み合わせはそれこそ無限にあり、この熾烈な戦いを勝ち抜いてこの世に誕生した最初から、はこの世に一人しかいないかけがえのない存在なのだ。

この本は、単なる哲学的な考察ではなく、グローバルシステム、グローバル資本主義を採用したことによる社会の変化、日本の構造改革推進による問題点を、経済的側面から果敢に掘り下げている点が特徴的だ。一瞬、何の本を読んでいたのかを忘れるぐらい新鮮が驚きがある。

「黄金の拘束服」と呼ぶ、新しい政策を導入しなければいけないという。(中略)具体的には、経済活動の中心を民間に置き、国有産業と公益事業を民営化し、関税や資本市場の規制を緩和し、外国からの投資を奨励し、国内での競争を促進させ、国民の個人投資の選択肢も広げるような、政治経済的政策である。つまり現在の日本政府が推し進めている「構造改革」とはまさにこの「黄金の拘束服」の実現に他ならないことが分かるだろう。

ハンバーガーチェーンのマクドナルドが存在する任意の二国は、それぞれにマクドナルドができて依頼、お互いに戦争をしたことがない。

グローバル資本主義のルールに従う国は汚職や賄賂などの腐敗が減少する。(中略)民主化が進む。

企業についても同じだ。情報開示が悪い、つまりIR(投資家向け広報)活動の悪い企業は投資家から見向きもされなくなり、資金調達の道を閉ざされることになる。常に投資家の厳しい目にさらされることになるのだ。それがグローバル資本主義のルールなのだ。

グローバルシステムを採用した社会は、他人の目を意識せざるを得ない社会であり、これが新たなるストレスになる。かけがえのない自分の喪失につながっているのである。

かけがえのなさを取り戻すためにはどうしたらよいのか。

経済的利益至上主義すなわち数字信仰ではなく人生の質を目指していくべきだと著者はいう。

自分自身の心に素直になって、自分がいま一番何を求めているのかに従って生きていこう、モノの多さ、地位の高さ、そして「他者の目」からの要求に惑わされず、自分の感じ方を尊重して生きていこうということこそが「心の時代」なのだ。

著者は釣りバカ日誌のハマちゃんの例をあげて、自分の好きなものに打ち込む幸せの重要性を訴えている。

かけがえのなさを取り戻すための活動は、経済的利益至上主義ではない活動、つまりNPOが中心になってくる。自分のためだけではなく、他人のため、社会のため、世界のために活動することによって自分自身も救われるのだ。

社会に役立つことの喜び、かけがえのない自分の発見、生きる意味を再認識する。まわりが暗かったら自分が光になり、まわりを明るく照らしていこう。著者の気持ちが伝わってくる。

ぜひ一読をお勧めしたい。

|

« 中国のこと | トップページ | PC-8001 »

コメント

トラックバックから辿ってきました。
「トラックバック」とういやつが良く分かっていません。

『生きる意味』まだ読んではいないので(買ってもないけど)、とても参考になりました。
次買うリストに挙げておきます。

投稿: マメタ | 2005/04/30 23:49

>自分自身の心に素直になって、自分がいま一番何を求めているのかに従って生きていこう、モノの多さ、地位の高さ、そして「他者の目」からの要求に惑わされず、自分の感じ方を尊重して生きていこうということこそが「心の時代」なのだ。

>僕も、トラックバックから来ました。資本主義の弊害は、貨幣という量で多様な欲望を一つの尺度にしてしまった。(ドルーズ)
 だから、上記の自分の目線ということが大切なのですね。

投稿: uland | 2005/05/01 08:43

マメタさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
トラックバックのやり方がこれでいいのかよくわかっていないので、失礼があったらお許しください。
この本は子どもの学校の先生から勧められて読みました。久々に考えさせられる本でした。ぜひこどもにも読ませたいと思います。

投稿: たっくん | 2005/05/01 10:39

ulandさん、はじめまして。コメントをありがとうございます。いきなりのトラックバックをお許しください。
ulandさんの人生に関するコメントは奥深いですね。また、ちょくちょくよらせていただきますので、よろしくお願いします。

投稿: たっくん | 2005/05/01 10:48

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19872/3858720

この記事へのトラックバック一覧です: 生きる意味 上田紀行著 岩波新書:

« 中国のこと | トップページ | PC-8001 »